ドリルでできた動きが、走ると再現できないのはなぜ?
たとえば、ゆっくり脚を上げるドリルでは、姿勢も脚の位置も確かめられる。ところが、そのあと走ってみると、意識してできていた動きが再現できない。
もう少しドリルを繰り返したほうがいいのか。それとも、走りながら意識し続けるべきなのか。
こんな場面を考えるとき、一度立ち止まって確かめたいことがあります。ドリルで「できた」のは、どの条件で、何ができたということなのか。そして、走ると何が変わったのか。
この違いを見ていくと、ドリルと走りの間にある課題が少し具体的になります。
「その場でできる」の、その先を見る
声をかけてもらった直後に姿勢が変わる。何度か繰り返すうちに、動きが滑らかになる。こうした練習中の変化は、運動学習の分野では「遂行」として捉えます。
そこから時間を置いて、同じ課題をもう一度行ったときにも再現ができるかどうか。これが「保持」です。さらに、練習した課題や条件を変えたときにも再現できるかを、「転移」として確かめます。
ドリルの動きが翌週もできることと、走ったときにも役立つことは、同じ動きではないのです。
- 遂行:練習中に変化したものを再現できる?
- 保持:日を空けても、同じ課題が再現できる?
- 転移:走る場面など、違う条件でも再現できる?
この3つは、順番に進む段階ではありません。転移は、練習した直後にも、別の日にも確認できます。
運動学習の実験では、練習中には再現できた方法が、後日の練習でも再現できる(保持)や別の課題への転移でも優れるとは限りません。ランニングを直接調べたものではありませんが、「その場の上達」と「身についたこと」を分けて見る手がかりになります。
今日再現できたことを喜びながら、次回は修正を受ける前にどう動けるかも見てみる。その確認までを、練習に含めたいと思います。
走る速さが変わると、課題も変わる
では、なぜドリルで再現できた動きが、そのまま走ることに再現できないのはなぜでしょうか。
たとえば壁に手をついて片脚を上げるときは、壁からの支えを使い、脚の位置をゆっくり探れます。走るときには、身体が前へ進みながら、片脚で支える時間と、脚を空中で戻す時間が繰り返されます。膝の高さが似ていても、身体を支える条件や、その位置を通過する速さまで同じとは限りません。
走行を計測した研究でも、速度が上がると、接地直前の股関節や膝関節に求められるトルクや仕事の量が増えるなど、関節ごとに求められることが変わっています。低速で確かめた姿勢(カタチ)だけでは、高速で走るときに必要な動き(機能)までは捉えきれません。
見たいのは、”速度”と”接地時の足と体幹の連動性”です。
片脚を上げた姿勢(カタチ)だけでなく、右から左の重心移動、左から右の重心移動に必要な股関節の動き(機能)を、毎回の声かけを手がかりに整えているのか、自分で動きを再現できるのか。
動きの形に加えて、使っている情報も観察する対象になります。
ドリルには、条件を単純にして姿勢や感覚に気づきやすくする役割があります。その気づきが実際に走ることでどう使われるかを確かめる、という位置づけです。

ドリルと走りを往復して確かめる
この考え方を練習に落とし込むなら、最初に短く走り、今日の取り組むポイントを見つけるところから始められます。
たとえば、接地から次の一歩へ移るリズムについて取り組むとします。ドリルでその感覚を探ったら、再び走ってみる。ここでは、脚の形をそのまま当てはめようとするより、走っている中でリズムがどう変わったかを確かめます。本人の感覚に加え、最初の走りと同ていどの速度で撮った動画と比較することで、接地時の足と体幹の連動性に変化が起きているかを確認できます。
速度をそろえるのは、ドリル後に動きが変わって見えても、単に速く走ったためかもしれないからです。映像で形が変わったことと、走る楽さや記録が改善したことも、分けて受け止めます。
変化が見えなければ、同じドリルを増やす前に、実際に走った時とドリルとの違いを探ります。速度を上げたところで難しくなるのか。壁の支えがなくなると動きにくいのか。声かけがある時だけ再現できるのか。ドリルに戻るときも、どんな条件の時にできて、どんな条件の時にできないかを探ります。
ランナーの走り方を変える研究でも、練習環境を離れたときや、時間が経ったあとにも再現できるか(保持されているか)。ドリルの効果を直接示すものではありませんが、「身についたか」を見るときに参考になる視点です。
ドリルでできた動きが走ると再現できていないように見えても、その時点で取り組みの価値がなくなるわけではありません。どこまではできて、どの条件から難しくなるのかが、次の練習を考える手がかりになります。
ドリルで気づく。走って確かめる。必要なら戻って、条件を調整する。そして、別の日にも試してみる。その往復を通して、走りの中で使える動きを探っていきたいと思います。

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