接地時間は、短いほどいいの?
たとえば、練習を終えて時計のデータを見返したとき。ペースや心拍数の横にある「接地時間」が、前回より長くなっていたとします。
脚が地面に残っていたのだろうか。もっと素早く離した方がよかったのだろうか。
速い選手の軽やかな走りを思い浮かべると、短い方がよさそうに見えます。ただ、その数字を次の練習の目標にする前に、少し考えてみたいことがあります。
接地時間は、一方の足が地面に触れてから、その足が離れるまでの時間です。地面にいる間、身体は支えられ、進む速度や向きを変える力を受けています。接地時間の長短を考えることは、力を受ける時間の長短を考えることでもあります。
まず、その日は同じ速さで走っていたか
接地時間を比べるとき、先に確かめたいのは走る速さです。
屋外での走りを調べた研究でも、同じ人が走る速さを上げるほど、接地時間は短くなる傾向が確認されています。
つまり、昨日の速いペース走より今日のジョギングで接地が長かったとしても、それだけでフォームが崩れたとは言えません。走る条件が変わったことを、技術の変化として読んでしまう可能性があります。
同じ選手の変化を見るなら、まず速度をそろえる。できれば路面や勾配、靴、測定機器もそろえる。そのうえで何が変わったのかを考える方が、数字を練習につなげやすくなります。条件をそろえるのは比較の出発点で、そろえれば短い方が優秀になるわけではありません。
短い時間に、どれだけの力を受けるのか
台車を押す場面を想像してみてください。同じ強さで押しても、一瞬だけ押すのか、しばらく押し続けるのかで、台車に伝わる勢いは変わります。
この「どれくらいの強さで、どれくらいの時間、力が働いたか」を一つにまとめたものが「力積」です。力の強さだけでも、時間の長さだけでも決まりません。
走るときにも、足を通じて地面から力を受けています。この力を「床反力」と呼びます。下の図は、そのうち身体を上向きに押す力と、接地時間の関係を表したものです。
色のついた面積が力積です。同じ面積を保ったまま横幅、つまり接地時間を短くするなら、その分、グラフの高さを増やす必要があります。短い時間に、平均してより大きな力を受けるということです。実際の走りでは、この面積自体も変わります。

なお、身体には下向きの重力も働いています。身体の上下の動きを考えるときには、地面から受ける力に加えて、重力が働いた分も差し引いて考えます。図の面積だけで、どれくらい身体が浮くかが決まるわけではありません。
だから、「早く足を離す」だけでは、走りがよくなったとは言えません。接地が短くなっても、その間に身体を支えるための力を十分に受けられているか。時間の短さと、その中で働く力をセットで見たいところです。
最高速度での研究では、速い人ほど体重に対する接地中の平均支持力が大きく、短時間で必要な力を発揮する能力が速さを左右すると考えられています。
短い接地の価値は、力を受ける時間を削ることだけでは説明できません。その短い時間に、走りを成立させる力を受けられることまで含めて考える必要があります。
ただし、最高速度での話を、ジョギングの経済性やスタート直後の加速にそのまま当てはめることはできません。ここでいう支持力は、身体を上向きに支える力です。上向きの力が大きいことと、前へ進める力が大きいことは、分けて考える必要があります。
「短い人」と「短くした人」は、同じ話ではない
では、一定のペースで長く走る場合はどうでしょうか。同じ速度を、少ない酸素消費で維持できるかというランニングエコノミーの観点です。
ここでも、接地が短い選手を見つけることと、その選手に接地を短くするよう指示して結果を見ることは、別の検証になります。選手同士には、接地時間以外にも違いがあるからです。
同じ速度とピッチで接地時間を変えた研究では、短くするほど酸素消費が減るわけではありませんでした。酸素消費が最も少なくなる接地時間の推定値は人によって異なり、普段の走りがそこに近い人も多くいました。
少人数での短期的な実験なので、長く練習した先の変化までは分かりません。それでも、「短くすれば省エネになる」と決めつけずに考える手がかりになります。
時計の画面に戻ると、接地時間は走りの一面を知る手がかりになります。けれど、それを単独で目標にすると、何のために変えるのかが抜け落ちやすくなります。
速く走りたいのか。同じペースを少ない負担で維持したいのか。まず目的を決め、その目的に合う条件で、接地時間と実際の走りの両方を確かめていく。感覚も記録しておきたいですが、「楽に感じた」だけで酸素消費が減ったと判定することはできません。
地面にいる時間の中で、身体には何が起きているのか。
数字を見たときにそこまで想像できると、接地時間は、次の練習で確かめたいことを見つけるきっかけになると思います。

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